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黒い野良猫

人間の言葉が少し分かった気でいる、黒い野良猫のお話です。

目次

僕は野良猫

僕は野良猫。どこにでもいる、そう。ありきたりな文章や言葉でまかなえてしまうであろう程度の猫である。自慢といえば、僕の毛色は真っ黒ではあるが、つやつやと光沢のある気品さえ感じるほどの黒猫ということ。野良猫として栄養不足気味なのに不思議だ。しかし、それは野良猫にとってこれは、何か得をしていると言うことにはならないらしい。

野良猫の生活に特別なことなどない。朝起きて、餌を求めて徘徊し、日が暮れるまでそこにいて、そして眠る。そんな毎日の繰り返しだ。日々を生きるための糧を得るために、人間社会から色々な形で食べ物を盗み食いすることもしばしばある。そんな生活にも慣れてしまい、最近は少し退屈している。

そんな僕が、この物語の主人公であり、語り部でもある。だからといって特別な何かをするわけでもない。単に日々を過ごしていることを話していくだけだ。これから語るのは、そんな毎日の中の話である。

いつものご飯探し

今日もいつも通り、ご飯を探しに出かける。野良猫は常に今を生きるから、美味しそうなものを見つければすぐに食べる。「さあ、今日のご飯はどれにするかな? 」辺りを見回すと、塀の上にたくさんの猫がいるのを見つけた。きっとあの猫たちはみんな野良猫だろう。「うん。あの辺りに行ってみようか。」塀の上を見ると、ひときわ大きな体格をした猫がいた。これを猫界隈では、いわゆるボス猫と言うらしい。その猫に向かって話しかける。

「ねぇ、ちょっといいかい?」するとボス猫はこちらを見て言った。「なんだい?私は忙しいんだよ。他所に行きな。」半分諦め口調で僕は続けて言う。「そう言わないでよ。ここら辺で美味しそうなものを教えて欲しいんだ。初対面なのは分かっているけど、明日もご飯が食べられるとは限らないからね。分かってもらえると嬉しいな。一方的に縄張りに入ってごめんだけど。」

するとボス猫は答えた。「そういうことなら仕方がないなぁ。教えてあげても構わないけれど、私からは一つしか提案できない。なぜなら君たちのような野良猫はとても多い。特に捨て猫は可哀相だ。餌の採り方も分からないし、ご飯の種類から何から全てが変わる。分からない事が多すぎるからね。つまり、何を言いたいかというと、私が知っていることは、そういう野良猫たちに教えてあげたいということ。」

なるほど。確かにそうだ。ここにいるほとんどの野良猫は元々飼い猫だったのだろうか。何にしても自分のことで精一杯なのだろう。僕みたいな生まれながらの野良猫に構っている余裕など無い。もし自分が同じ立場だったとしても助けることなんて出来ないかもしれない。それならば、せめて自分だけでもと思いながら元々飼われていた野良猫を助けて生きていた方が幸せというものだろう。ここは素直に受け止めておこう。

続く質問

そう思いながらも僕は続けて質問した。「分かるよ。でも、図々しくもまだお願いしたいことがあるんだけどいいかな?出来ればこの辺りを中心に回らせてもらいたいのだけれど。どうかな?」ボス猫は周りにいる猫たちを見回しながら、「構わないよ。」と、一言だけ了承と思える返事をしてくれた。そして、気が変わったのか「野良猫もう一匹くらい連れて行ってもいいだろう。ちょっと今から一緒に行こうか。今日はちょうど満月だから月明りのおかげで明るいしね。ついてきてくれ。」そう言うとボス猫は少し僕に近づき歩いたところで止まった。僕もそれに従い歩くことにした。

しばらく歩き続けると、月明かりの中で急に視界が開けてきた。どうやら広い空き地に出たようだ。周りを見渡すと、色々な種類の野良猫達が集まってきていた。その中には僕が見たこともないような立派な毛並みをした大きい猫もいた。中には飼い猫現役と思えるキレイな毛並みの猫もいる。もちろん僕のように毛並みだけで無く健康状態も良さそうだ。それにしてもなぜこんなところに集まるのだろうと考えていると、ボス猫は言った。

集まる理由

「さて、皆さんお集まりいただきありがとうございます。ここに集まっている理由はただ一つ。皆様には、まだ餌の見つけ方やご飯が何かさえ分からない野良猫たちの食料を探す手伝いをしていただきたいと思っています。私の見立てによるとこの辺りはたくさんの種類の食べ物があるはずです。飼い猫さんの姿も見えますし、この辺りは危険が少ないと考えています。」

ボス猫は、集まった僕以外の飼い猫と思える猫たち、捨てられたと思える猫、そして野良猫歴が長そうな猫たちに向かって話した。集まってきた野良猫たちは口々に返事をしたり、頷いたりしている。そこで、ボス猫がもう一度話し出した。そして静かに続きを待った。

辺り一帯を静寂が包んだかと思うと、突然大きな声がした。声の持ち主はボス猫のいる場所からは向かいと言えば良いのか、反対側にいる猫のようだ。みんながそちらを振り向くと、そこには体格の良い茶トラ柄の大きな猫がいた。あの猫もこの辺りのボス猫だろうか。その猫は他の猫たちとは明らかに違う雰囲気を漂わせており、長年の野良猫歴を思わせる力強さがあふれ出ている。しかし、見た目からは想像もできないほど穏やかな声で話し始めた。そして先程、声を出したと思われる大柄な猫は言う。

「みなさんはじめましてだ。私はこの辺り一体を縄張りにしている一番偉い猫である。まあ皆知っているだろうが。まず、この話を持ってきたそこのボス猫に皆は感謝をすることにしようではないか。本来ならすぐに追い返してやるところだが、今日はこの明かり、ゆっくり話しながら本題に入るとしよう。まずは餌探しだが、これは簡単だからすぐに覚えられるはずだぞ。そもそも人間はすぐに何かを食べさせようとする。いや、つまりだな、運が良ければ人間は食べきれないほどの量のご飯を与えてくれる時もある。ここにいる捨てられた猫たちには悪いが、それでも基本的に人間は野良猫に優しい」

それから少しの間、説明が続いたのだが、要約するとこうらしい。ご飯は、昼に人通りの多い路地の日陰で休んでいればいい。そしてたまに適当に鳴き声をだす。しかし、気をつけなければいけないこともある。それは食べてはいけない餌とは何かということだ。それを見分けるのが難しいので慎重に選ぶ必要があるのだそうだ。また、人間の近くで鳴いているとあらゆる人が寄ってくるため、防ぎようが無いのだが、場合によってはこれも注意が必要だと言っていた。

教わる先に見えるモノ

他にも色々と教わった。なんだかいつもに比べると今日は何か巻き込まれた感が出てしまっているが、そんな訳で僕らは早速行動を始めるのだという。餌は昼間の人通りの多いところと聞いたのに、今夜から何をするのだろう。僕は野良猫として生きていく上で必要な知識を身につけるために色々学んだ後、実はまだ一つ気になっていたことがあった。それがなにかというと、さっきの体格の良い茶トラ柄の大きな猫が言っていたことだ。

「なんか僕ら野良猫って人間にすごく好かれているみたい?だとしたらさ、なんで野良猫なんてものが増えているんだろう思って。だって、もし本当にそうならみんな人間に飼われていて当たり前じゃないか?だったらどうしてみんな野良猫をしているのかなと思って。もしかしたらみんなも不思議に思っているかもって思っているんだ。」皆一様に、僕が気になって聞いていた言葉に耳を向けてくれていた。ボス猫はすぐに答えた。

「そうだなあ。たしかにその通りだな。」

僕の疑問に、体格の良い茶トラ柄の大きな猫が答える。「例えばの話なんだがな、もし君達が人間達に飼われるとしたらどんな飼い主が良いと思う?自分の意思で飼い主は決められないし暮らしやすい環境を伝える事もできない。気まぐれ程度に付き合わないとずっと抱きかかえられたまま自由を奪われる。ある意味、人間達が持っている飼い猫像に我々は合わせなければならない。猫は各々に猫格にもあるにも関わらずにだ。そして、この価値観に合わなければあっさりと捨てられてしまう。これが現実だ。それでも、野良猫になった我々に優しさを見せてくれる人間もいる。」正直、まだ若干ピンときていが、僕はそれを聞いて少し疑問を持った。僕は今まで飼われていたことなど無い。だからそんなことを考えたことも無かったし、考える必要もなかったのかもしれないと思った。

僕は続けて聞いた。飼われたいと思う気持ちは分かるけれど、飼われたくない気持ちもわかる気がすると。すると、それを聞いたボス猫が話し始めた。「君はまだ若いのだろうな。知らないのも無理はないか。ちなみに私くらいの歳になれば飼われていた経験などなくても、これまで見てきた元飼い猫で自ずと分かってくるものだ。」そして、体格の良い茶トラ柄の大きな猫に続けて言う。「それでも今日はありがとう。私は諍いが嫌いだ。この辺りは私の縄張りではないのだが、君のような猫が話しを聞いてくれて心強いよ。」

そう言って、ボス猫はこの話を終わらせようとしたのだが、僕は気になってしょうがないことがあった。今日会う猫たちは皆、色々な事、特に生き方について丁寧に教えてもらい、驚きや戸惑いを見せつつも基本的には感動をしているだろう。一体この状況は、それぞれの立場で何の得があるのだろう。僕は生まれたときから野良猫だ。話の中には、新しく食べて良いモノと食べてはいけないモノなど、かなりのお得情報を得たがそれを実証する信憑性がない…

「…そうか、そういうことか。」

猫の日常にも人間の日常にも溢れている、一見したら平和で易しく見える世界。けれど、少しでもその世界で言う満足できると思える人生や猫生から外れたら、自分の身を他人に委ねる限りは限界まで利用され、搾取され、時には未来のために…ということなのかもしれない。

そんなことを思うと、自慢の毛並みも水分が全て蒸発したように乾いてソワっとした。僕は、この耳障りのいい会話から考えられる実情との乖離は理解できても、もう同じ行動できない。ボス猫や体格の良い茶トラ柄の大きな猫には悪いが、目的地が分からない中で草むらを通る際に90度方向を変え、月の見える方向にある塀の上に飛び乗り、心の中で皆にサヨナラを告げた。

他の野良猫たちには僕の姿がどう見えたのだろう。これもまた、レールから外れた野良猫の一匹と思われたのだろうか。そんな時、僕はゆっくりと歩きながら周りを見渡しながら歩いているボス猫と目が合ってしまった。一瞬緊張がはしった僕にボス猫は僕に声を掛けることもなく、何も言わずに他の野良猫たちを誘導するように通り過ぎていった。

下を向く理由

僕は野良猫、今日も特に何も変化はない日々なのだけど野良猫の毎日は忙しいのだ。今日もおなかいっぱいの餌を見つけて満足の僕は、いつも通りの散歩をするために外に出た。とても良い天気なのだけれど、少し風が強いなあなんて思いながら歩いていくと目の前に何かが落ちているのを見つけた。

「なんだろこれ? 」そう思って近づくと、その落ちていたように見えたモノはどうやら人間のようだった。その人間はボロ雑巾のようにぼろぼろで今にも壊れそうだ。よく見ればそこら中に落ちていた。 僕は野良猫だ。誰も呼べないし、呼ぶつもりもない。でも、ふと思ったんだけどさ…まあいいや、気にしない。だって僕には関係ないからね。

僕の周りに優しい人間は誰もいなくなったし、飼い猫だった時期が合ったなんて誰も覚えていないからね。それはそうと、えっと…。誰か知っている人が来たような気がした。誰が来たのか分からないけれどとりあえず隠れるかな。

えーと…。ここなら安全だよね。ってあれ?どうしてまだこんなに人間が沢山いるの?しかもみんな怖い顔をしているし、なんか怒ってるみたい。下を向いてうつむいて、一体何でみんな同じ姿勢で歩いているんだろう。いや、とにかく人のいない所へ行かないと。

川沿いの散歩

そしてしばらく歩き続けた先には川が見えてきた。水の音を聞きつつゆっくり進む。だんだん周りにいる人は減ってきた。月明かりとはいえ野良猫には明るい。ここは道路が川沿いに通っていて車だって通るし、散歩をしている人もいる。…この人達は餌は持っていないだろう。

川の水はとても綺麗で透き通っていた。顔をのぞかせてみれば水面に自分の姿が映っている。僕はとても気分がよくなった。僕は昔から泳ぎが得意だったのでそのまま勢いよく飛び込んでいようと思ったのだがそれは冗談。猫は野良猫でも濡れるのは苦手なんだよ。

ということでまたの機会にすることにする。というかこのまま飛び込みたい気持を押さえつけなければならないと思う冗談がツボに入り、それだけでおなかが空いてしまいそうだ。そもそもな僕は泳ぐことができるのかよく覚えていないし。そういえばなんの話をしていたっけ。ああそうだった。それで結局のところ、泳ぐかどうかはどうでもいいや。

僕はいつも、時折人間からの視線を外し、別の風景を見ていたりするのだけれど、いつもと違って視線が突き刺さるように痛かった。だから今日は視線を変えることもなく真っ直ぐ前を見て歩いている。まあ歩くと言っても、この川の先はどこかで行き止まり。ねぐらのまでの距離はそこまで離れていないんだけどね。歩いていても何かが起こるわけではないので本当にただの気まぐれだよ。

あくびも出ないくらいに眠くなるような日もあれば、ただ僕のねぐらに帰りたくないと思ってしまうほど寂しくなったりすることもあるわけだけど、「この日は特に何もなかったかなあとか」思っていたら結局、あっという間にいつものねぐらに到着してしまった。今日は特に、何もないというのは言い過ぎかもしれない。それにしても、あんなに壊れそうな人間の数を見たのは初めてだった。

人間と僕

次の日、僕がいつもの朝の散歩道を歩いていると、いつも何事も起こらないと思っていただけに少し驚いた。何気なく感じた人の影に振り返るとそこには一人の男がいた。「僕は何者でもない野良猫なんだがお前はなんなんだ?」、「君だよ?そんなの当たり前だろ。ここには僕と君しかいないんだからな。他に誰がいるんだって話になる。」、「もちろん僕だって暇じゃないんでねえ色々とやることがあるんだ。」

別に僕には何もしなくてもいいんだよ。何にもしないでいいのさ君は何もする必要がない。そのまま僕は通り過ぎるだけ。何でそんな意味ありげに不思議そうな顔をするのか意味が分からない。

男は「何をしてもらいたいのか早く教えてくれないか?」という表情をしている。

僕には彼が何を考えているのか理解することはできないけど、それでも彼は僕に話しかけているようだ。でも何だかこの記憶はある。偶然なのかは知らないけどさ。多分、今日みたいな雨の日だったと思うよ。

僕は彼と初めて会った時のような…。誰の声かすら分からなかったのだけど、はっきりと聞こえる声だったのは確かだった。どんな声なのか聞こえてるのかなんてどうでもいいんだけど、はっきり聞こえているというよりは、聞こえてきた気がしたっていう表現の方が正しいのかもしれない。

つまり、まあそんなことはどっちでもいいんだけどさ、僕にとって重要なのは優しくしてもらえて餌をもらえるかどうか。でも自分で見つけられるから大丈夫。それだけの事なんだよね。もしも僕の周りに人間が沢山いてみんなが優しければ、こんなことにはならなかったんだろうけれど仕方がないよ。人間は僕らと違って忙しい生き物だからね。

生まれたときから僕は野良猫

そもそも僕ら野良猫は、この世界において必要なのかわからない存在なんだもの。その証拠にほら、今もこうやって人々は通り過ぎていく。僕らはそういう毎日で、そうしてまたどこかで一匹の命が失われるんだけれど、それが自然の摂理ってものなんだ。僕らの世界では毎日のように命が生まれている一方で消え去っていく命がある。自然ってそういうものだと思う。それはそうだよ。生まれた時から同じ柄でもすでに何かが違っていて、どこで生まれたかによって最初から全てを諦めてしまっている猫もいるからね。

それこそ、僕らみたいに生きることに対して執着心のないものとか。例えばの話、僕らの中で一番弱い野良猫はどこか遠くの国で優雅に生まれて育ち、そしてそのまま大人になって幸せになれるとしたならば、それは幸せなんだろうかと考えてみる。

…どうして急に変なことを言い出したのかって?

それは野良猫の一日は長いようで短いから。それでつい距離感が全く分からない行き先の考え事をしてしまうわけさ。野良猫は明日さえ生きていられるか分からない。とりあえず今は何もしないで、寝転んでいるだけで構わないからゆっくりと考えてみる。

まあ、あとどれくらいの時間が残されているのかは僕は知らないし、誰も知り得ないんだけれど、いつか訪れるであろう終わりに向けて今できることをやるしかないわけで、何が正しいか何てものはわからないまま時間は過ぎていく。

どうせすぐに終わるのだから意味なんてないと言えばないのだろうけれども、何か新しい事を始めるには遅い気もするんだ。遅すぎるくらいなのかもしれないよ。結局、世の中は…例えば人間の世界では全てがお金次第ってことになってしまうのといっしょで。

下を向く理由

「さてと寝るかな。」

と思って横になるとちょうど目に入ったゴミ袋が視界にはいった。僕の中に少しだけ残っていた良心のようなものがあるのかな…。なんて嘘。これは野良猫にとってご馳走の予感がすることなんだ。うん、分かるぞ。その中身は食べ物のようだったので近づくことにした。いや待てよこれはもしかしたら罠かもしれない…この考えはスゴく重要だ。行き先は常に、誰かに預けてはいけないから。

しかしながら実際のところはどうなのだろうと考えつつ歩みを進めていくと、その答えは意外と早く出たのだった。目の前に広がっている光景はやはりというか…ご馳走だ。人間が食べるはずだったものであろうモノがあって、元々は食器の上にあったのであろう。そしてそれは、まだ新鮮であることを示すかのように各食材の香りがハッキリと嗅ぎ分けられる。

ここ最近は、まともなご飯にありついている。これは野良猫として誇れるべき間違いがない事実だ。実際問題、この空腹をどうするかは常に最優先の課題になっているが、それ以上に目の前にある食事に心を奪われる時間がもっとも僕にとって幸せを感じることができるときだ。

最近気づいたことがある。どうやら僕は他の野良猫とは少し違っているみたいで、その理由というのが、そもそも人間の言葉は理解できても喋ることはできないはずなのに、「なぜか自然と会話ができているような気がする。」ということみたいだ。人間が言葉を喋っているところを聞いていて、自分でさえも何を言っているのか分からないというのに、普通に会話が成立してしるように感じるのはとても驚いているよ。

それともう一つ不思議な事があるんだけど、どうも僕らは基本的に人間達からは好かれているようだ。これは本当に不思議でしょうが無い。けれど、中には乱暴な人間もいたり、自分が飼い猫だと思って可愛がってくれちた思ったら、いきなりどこかに追い出されて野良猫になる猫もいるらしい。

長い期間、ずっと好きになってもらうのは非常に難しいらしくとても苦労するみたい。例えば、人間の言葉を理解できたとしてもその言葉の意味を理解することができないと意味がないらしい。そういう場合はどうすれば良いのかと言うと、人間に飼われることが1番の近道だそうだ。飼ってもらい、ご飯を食べさせてもらって人間の言う言葉と自分にしてくれることを理解する。ただし必ずしもそうとは限らないようだけど。

そもそも、人間の言葉に合わせて鳴いてみたりだとか、餌のために芸を披露したりとかも一種の愛情表現みたいなものだからそれを否定するわけじゃないんだけど、本当に飼いたい人に限ればそういうのは一切必要と思うんだけどどうだろう?なぜそう思うようになったかというと、短いとはいえやっぱり僕自身が実際に体験したからだと思うんだ。そこで僕が何をしたのかと言えば、餌をもらって鳴きながら人間の触るモノに触ってただ歩いていただけなんだけどね。

最初はそうやって愛想をふりまけばみんな満足してくれるって思ってた。だけどそうじゃなかったんだ。確かに相手は嬉しそうな顔をしてくれたり撫でたりして喜んでくれた。でも違うんだ。本当の飼い主との関係というのは、本当は一緒に遊ぶというか…。自然なんだ。一緒にいる全ての時間が無意味で過ぎていくことなんじゃ無いかと思う。

僕は、まるで機械のように決められた動作を繰り返す毎日。それが一番効率が良いっていうのを知っている。でも無駄な動きはしない方がいいと思わない?だってそうじゃない?疲れちゃうでしょ。だから日々はいつもと同じように生きていくんだ。

そういう意味では、飼われた時のことを思い出すと、とても退屈で、幸せなようで、飽きられて捨てられる日を思う自分と今を重ねられる。生きる意味とか難しいことは分からないけれど、何か毎日、1日1日を実感するっていうのはそういうことだと思う。

でも僕が下を向く理由は人間と違うよ?僕が生きていくために探すんだ。毎日。

軒下から見える風景

僕は野良猫、今日も僕は、いつもの散歩道を歩いている。今日は確か、人間の世界で言うと日曜日だったからかもしれないけど、道路には車がたくさん走っていたし、人通りも多かった。僕はそんな喧騒と雑踏に交ざって歩きながら、今日は何を食べようかなとか考えていた。

急に風が強くなって雨まで降ってきたので困ったなと思った時、車のエンジン音が激しく響いたかと思うと、凄い勢いで走り去って行った車がいた。僕はビクッと背を丸めたいところを我慢して、とにかく高いところへ飛び乗った。そしてその車はあっという間に見えなくなってしまったのだけれど、でも、野良猫にとってそれはいい事でもあった。なぜなら、飛び乗った先は軒先の端とはいえ、雨をしのげる場所でもあった。もう濡れずに済む。 

雨はさらに強くなってきて、まるでバケツを引っくり返したような大雨だ。アスファルトの上に叩きつけられた水が、よくしゃべって飛沫をとばすような、そんな様が見えるほど激しい降りかたであった。だからだろうか、人間は傘を差し、下を向きながら移動をしている。今日は元気がないのではなく、雨の不便さを考えているだけのようだ。こんなにも激しく降っていたら、何もできないじゃないか。何かをするにしても身体中ずぶ濡れになってしまうのだし、それはそれで不快極まりない。それに何より餌が濡れてしまうだろうことに、僕は面倒を感じていた。

人間の生活

しかし人間はどうしてこうも忙しいのか。みんなどこかしらに向かって歩いて行くだけで、疲れた顔のまま表情がない。きっと目的地があるんだろうけど、自分の目的ではなく、ただひたすら前に進むという意味だけを探しながら。そんな事をぼんやり考えていてふっと気がついたのだが、どうやら人間が一人、僕の近くを通り過ぎていったようだ。

顔を見ようとしたんだけどやっぱり無理だったので、仕方なく目だけを動かし追うようにすると、その人間はかなり大きな荷物を抱えていたのですぐに分かったのだ。その人間はとても急いでいるようで小刻みに足を揺らしながら早足で歩き、だけど時々立ち止まり、後ろを振り向いたりしている。誰かが追いかけてきているのではないかと疑っているようにも見えたけれどそうじゃないらしい。

人間は再び歩き出しまた止まったりを繰り返して、そんな風に何度か繰り返していたもののようやく諦めてくれたらしく再び先へと歩き始めたようである。人間も安心したのだと思いながら僕が大きく背伸びしていると、どこからか声が聞こえたような気がしたので辺りを見回すことにした。

耳を澄ましていると、それはさっきと同じ感じで、間違いないと思えるもので少し不安そうな感じだったのだけど、僕にはさっぱり意味が分からない言葉だったから困ってしまった。そこでどうしようかと思っていたら突然上から何かが落ちてきたような音がして、またしてもビックリしてしまったものだから今度は身をすくめてしまった。

何なのか考える暇もなく今度は声が聞こえてきた。意識をそちらに向けるとなんだか安心したような気分になった、そしてスゴく良い匂いがしたかと思うと、その人間はおもむろにお弁当の中にあるご飯を捨てていたようなのだ。

人間はどこかに行く必要があったらしいのだが、行くことが出来なくてお昼を食べることも出来なく、野良猫の僕にご飯をくれるという感じらしい。しかも丁寧に、しょっぱくないものを差し出してくれる。これはスゴくありがたい。大雨、びくりと驚く今日は、ご飯探しに苦労しそうだったがそんなこともないようだ。

そんなことを考えている内に食べ終わった僕は、口の周りを舐めて綺麗にしていたのだった。この人間は、もしかして僕と同じように雨が降った時、ここが雨宿りができる困らない場所ってことを知っている人間なのかな。それだったらここは便利かも。だってこんな立派な屋根があるんだもの。しかも、大雨の日はこの人間が来て餌をくれるかもしれない。

もしもそうだとしたら、ここへの散歩ルートをいくつか確保して、もっとちゃんと調べなくちゃいけない。もちろん、人間の言葉も少しわかるのだから、甘い声で鳴けば意思疎通が出来ることも知っている。とりあえずこの場所だけでも覚えてしまおうと思い周りを歩くことにしたけど、思ったよりも結構複雑な路地だったから時間が掛かってしまった。

なんとか大通りに出られてホッとしていた。というのは、野良猫界隈では「縄張り」についてスゴく厳しい態度をとられる。時にはこの日々にサヨナラってなってしまうほどの出来事が起きることだってある。だから、肉球の臭いが消えやすい大雨の日は移動は気をつけなければいけないからだ。

そんな不安は、また空いてしまったおなかのせいで目が回りそうにクラっとしたので、思わず座り込んでしまいそうになったところであることに気づいた。どうしてか、さっきの人間がなんか知らないけど僕を見てる。いや見ているんじゃなくて見つめてる? なんでだろう怖いなと思ったけど、別にさっきもご飯をくれたし何もされなさそうだから大丈夫かな。

でも、ちょっとでもおかしいぞと思う間もなく、その人間はどこかへ行ってしまった。それにしても今日の天気は変だな。何だかずっと泣いているような、暗い灰色をした空だった。飼い猫組に聞いたのだが、最近の人間の世界は天気だけでなく、あらゆる面で傘も差さずに歩かなければいけないような毎日を送っている人が多いらしい。それに、今度は雷まで鳴り出してるし。今日は早くねぐらに戻って夜まで寝ていよう。

野良猫は記憶力がいいんだ

夜になり、静かな風の音は雨を運んでくることもなく、季節の変わり目に寒さを感じながら、今日はちょっと遠いところまでいってみた。さすがに疲れたなぁと思って、少し大きめの公園に来てみたんだけど、そこに人影はなく、街灯だけが寂しげに灯っていた。

仕方がないから、少しベンチに乗って丸くなって寝ることにした。そうしたらしばらくして人間がやって来て僕のことをじっと見ているのが分かった。目を開けると、僕はその人間と目が合った。それは、偶然にもお昼頃、大雨の中にある軒先の影で僕に御飯をくれた人間だ。

何か言いたげな顔をしているように思えたから、少しだけ気になったのだけど、それよりも眠気の方が勝ってしまったようだ。気がついて起き上がると、その人間は別の所へ行ったようで気配が消えていた。けれど、そのすぐそばにはお昼にくれた御飯がまた置いてあった。

けれど、少し不安があった。自分の考えを他人に預けていけない。それを食べようかどうか悩んで結局はやめておいた。何故なら、僕は野良猫。ここに来るまでにも何か見つければすぐに食べられるものか確認をして、常に食べ歩きをして散歩をしている。戻る途中でふと空を見上げると、今日も夜空に星が出ているのが見えたので嬉しくなった。昼間の雲はどこかに行ってしまったようだ。そんなことを思って夜空を楽しみながらその日は眠りについた。

翌日、しばらく歩いているとお腹がすいてきたので公園の水飲み場で喉を潤しに行ったら何やら声がする。何なのだろうと思っているとその声の主が近づいてきた。その主は、なんとまた、あの人間だったのだ。しかも片手にビニール袋を下げていてその中から白い煙のようなものが立ち上っている。いやこれは暖かい御飯だと見える雲のような。どうやら人間自身が何かを食べているようだが、僕は御飯がもらえなければ関係ないし、食べるものさえもらえれば良いので、何もなさそうな感じだったのでそっと離れた。

その時、急に風が吹いたと思ったら、その人間が持っていた袋の中にあった食べ物が地面に落ちてしまったのだ。二人の間に不思議な空気感が流れた。確か人間は、落ちたものをそのままにして去ることは良くないことだと言っていたはず。しょうがないから自分が食べられるものか確認をしつつ、美味しそうな臭いだったのでそのまま食べた。安易に食べてしまった。けれど美味しい。

できればもう一つ食べたいくらい美味しい。でも、どうも落ちているものは一つしかないらしく、他には何も落ちていないようだったのでもう諦めることにした。最近よく会うあの人間は、なんだか僕でも食べられる御飯をよく持ち歩いている気がする。いくつかのポイントで会っているのでよく記憶しておこうと野良猫はかんがえていた。

猫社会と人間社会の共通点

そんなことを考えながら次の場所に向かう。その公園は、中央が広場になっていて噴水があり、小さな子供達が水遊びをしていて、周りのベンチにもたくさんの人間がいて賑わっている。しかし、僕にとっては危険なエリアでもある。小さな人間達のあそびに巻き込まれれば、体は濡れるし体は冷える。しかし、人間にとってはそんなことを気にしない程楽しい時間を過ごせる場所だ。しかも人間はシートを敷いてなんだか色んな食べ物を広げている。近づけば少しくれるだろうか。

しかし、今日の僕はそこでの御飯を諦めた。人間界隈には「リスク」という言葉があるらしい。リスクとは、冒す危険の代わりに得られるモノを対比用語として扱う言葉なのだが、背負うリスクと同じ、またはそれ以上に得られる何かはほぼ存在しないと、大きな家で飼われている賢い飼い猫組の猫さんが言っていた。

僕が御飯を食べれば、それは誰かの御飯を奪っていることにもなる。そして、どの時点でそれをリスクヘッジするかは自分次第。とはいえ、得られる情報に平等はない。常に得られる人間や飼い猫が利得に近い場所にいて、そのおこぼれがもらえれば良いほうなのだ。

急に小難しいことを思い出した僕は、いつも通りの帰り道にあるいくつかの少量な餌ポイントを見つけながら自分の寝床に帰るのであった。

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著者

複数のブログサイト制作と運営、イラストデザイン、3DCG制作、エッセイや短編小説、私小説などの、色々なコンテンツを制作しています。







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