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日常

目次

喧騒のワンルーム

都内のどこか、平日はビジネス街の喧騒の中に借りたワンルーム。

8時15分、鳴海 誠はスマホに設定したアラームに寝ぼけ眼ながら起床する。

乗り物酔いが酷いので、会社の近くにこの部屋を借りている。

部屋は狭いが歩いて行ける距離で通勤できるのは、彼にとってメリットだった。

ベッドから起き上がりると、洗面台に向かい顔を洗い終える。

いつものようにキッチンに向かい朝食の準備をする。

ありきたりではあるが、食パンをトーストに入れ、サブスクリプションでレンタルしたコーヒーメーカーで洒落たエスプレッソを入れる。

メインは、いつも加減が分からないので少しだけ焦げてしまう卵焼きを作る。

一人暮らしなので大した料理はできないが、それでも朝ご飯くらいなら作れるようになっていた。

テレビをつけニュースを見ながら自分で作った朝食を食べる。

今日もいつも通りの一日が始まるなと思いつつ食べ終えた食器を流しに置き、新入社員時代から着ているスリーピースのスーツを着る。

ベストに付いているボタンの一番下は留めない

そして、無理して買ったブランド物だけど余り目立たない、けれどモチベーションを高くするために、社会人になってから使い続けている手持ちのビジネス鞄を持って玄関を出る。

エレベーターに乗り一階まで降りて外に出る。

少し歩くと地下鉄の入り口が見えてくるので、そこに入り階段を下っていく。

地下鉄の通り抜け通路を抜ければすぐに会社に到着する。

鳴海はそれくらいの距離に住んでいた

地下鉄の通り向け通路、後ろの方から響いて聞こえてくる足音。

振り返ってみるとそこには見知った顔があった。

同じ部署の後輩であり同期でもある大沢 あかりだ。

彼女は僕を見つけるなり駆け寄ってくる。

彼女の手には可憐な花柄模様の入った紙袋。

今日は得意先への挨拶が予定に入っているのだが、先方の担当が変わることが分かっていて、新しく部署異動してきた大沢との顔合わせをする打ち合わせでもある。

鳴海はいつも、彼女に話しかけられる前に口を開く。

「おはようございます」

すると、彼女は礼儀正しく挨拶をして頭を下げる。

それはまるで上司に対する部下のような態度であった。

同期なのだからというより、今の時代に組織にある上下関係や指揮系統については多少わかるが、入社時期や部署、年上か年下かなんて考える必要もない時代にそんな態度をされると若干の困惑はあると鳴海は感じていた。

とはいえ、接し方を強要する必要はなし、社内での対応なんて本人の自由なのだからこれでいい。

相手を尊重して敬意を払い、敬語を用いて仕事のタスクだけをこなせばいい。

彼女が僕のところに来るときは決まって僕が一人でいるときだけだ。

そのせいか他の同僚からはまるで付き合っているのではないかという噂すら立っている始末。

男女が2人でいればすぐに関係についてと憶測が交錯するのは社会にデフォルトらしい。

もちろんそんな事実はないから面倒なコミュニケーションである。

鳴海と大沢は、互いに単に仕事上で必要な会話をしているとしか思っていない。

とはいえ、彼女とは同じ部署に配属されてからずっとこんな感じなのだ。

別に悪い気はしない。

それからしばらくして会社のロビーに入るための自動ドアが開く。

僕と彼女は一緒に会社の中へ入る

最近導入されたRFIDのセキュリティーカードを使い入場ゲートをくぐる

RFIDというのは非接触型ICチップのことでスマートフォンなどの端末に搭載されているものだ。

LF帯からUHF帯まであり、幅広い電波を成業する技術の1つである。

チップ内に割り当てられている情報の中に個人認証を行うことができるため、財布を持たずとも買い物ができるという事も可能な優れもの技術である。

また、この技術を使うことにより個人の出入り情報の追跡が可能になり、悪用される恐れもあるために社内での導入には賛否両論あったものの、今ではすっかり普及していた。

個人的にはインターネットやスマホなどを所有している時点で追跡が動向などのプライバシーなんか気にしても、技術の根幹にある情報(セッション)の仕様上、プライバシーなんで元々ないのだ。

そんな便利なシステムが導入されたにもかかわらず、いまだ名刺サイズのケースホルダーに入れた顔社印入りの紙を利用して、受付担当の人に挨拶をして入場する役員などの上役もいる。

これを聞いて、社員証と顔写真を使っているのは時代遅れなのだろうと思う人もいるだろう。しかし実際は違うのだ。

受付の人に挨拶をして、追跡情報の元になる情報を取得させず出入りする方が、何かと紙の方が便利だからということだ。

そのため今でもアナログ式の入館証を使っているのである。

たしかに入館についてそんな特権が認められるのであれば、仮に自分が取締役クラスだったら使わないかもしれない。

そんなことを口に出したらモラルやコンプライアンスに引っ掛かるから自然と会社の文化として馴染ませる。

だから誰も何も言わないし、その特権とも言える情報セキュリティーの抜け穴を使えることに疑問は必要ないと教えられる。

そんなヒエラルキーを受け入れながら毎日をそつなくこなす事が、うまく人生を生き抜くコツの1つと言われている。

そんなことも日常で、鳴海と大沢は今日もいつものように出社した。

コミュニケーションと距離感

2人はエレベーターに乗ってオフィスがある階へ上がる。

朝の早い時間なので誰もいない静かなフロア。

会社では始業前の朝礼がないのでそのまま自分のデスクに向かいパソコンを立ち上げる。

そして昨日の帰社後に送られてきたメールチェックや今日の予定を調整しつつ仕事を始める準備をする。

しばらくすると他部署にいる同期や上司達が出勤してくるので軽い挨拶を交わす。

そしていつも通りの時間になるとマネージャーがやってくる。

これも毎朝のことではあるが、一応全員が集まるまで待っているようだ。

やがて全員が集まると、ビジネスチャットツールによる連絡事項や確認、その他の打ち合わせなどが始まる。

打ち合わせが終わると各自の仕事に取りかかることになるのだが、そこで不思議なことが起こる。

鳴海が自分の席で仕事をしていると隣から話しかけられた。

隣の席は大沢あかりだ。

彼女は先ほど手にしていた紙袋を再び手に持ち今度は僕に渡すのではなく机の上に置いた。

これはいったいどういうことだろうか?

僕は彼女の方を見る。すると彼女は笑顔でこう答える。

「これ、昨日渡し忘れたんですけど良かったらどうぞ」

どうやら昨日は鳴海の誕生日だったらしい。

何かの時に誕生日をいったことがあるのかもしれない。

営業スキル的には、誕生日の記憶に自分の事が出てくるように印象づける方法は、距離感を絶妙に調整する必要のある高等テクニックだ。

いや、そもそもそんな記憶はないのだが・・・。

とはいえ断る理由も特にない。

それに好意は素直に受け取っておくべきだとも思う。

けれど今は仕事中だ。とりあえず彼女に感謝の言葉を返すことにした。

「ありがとうございます」

すると彼女の表情からは笑顔がこぼれた。

その後は特に何もなく、普段通り仕事を始めた。

当たり前に過ぎていく昼休み

昼休みに入ると同僚に食事に誘われたので食事をすることになった。

昼食の場所は会社の近くにある定食屋である。

そこは、分かりやすい言い方で言えば「サラリーマンの味方」ともいえる大衆食堂的な飲食店であった。

値段の割にボリュームがあって美味しいという定番とも言える評判。

会社から歩いて1分程度のところにあり、このオフィス街では平日、多くの人が利用している場所だった。

店に入った鳴海たちはテーブル席に座りメニュー表を開く。

昼時ということもあり店内は当然混んでいる。

店員に注文をして料理を待っている間、鳴海は大沢に話しかける。

鳴海は普段、雑談をあまりしないタイプなのだが、なぜか大沢に対してだけは気軽に話せるようになっていた。

仕事上の会話以外ほとんど話さないのだから当然といえば当然だが、鳴海にとってそれが不思議でもあった。

けれどそれを特別意識したりはしなかった。

ただ単に話しやすい人というのが鳴海の中での大沢に対する評価であった。

そのせいなのかはわからないが、仕事以外のプライベートなことは特に話す事はなかった。

誕生日をはじめ、例えば好きな食べ物の話とか休日は何をやっているのかとかそういうこと。

別に無理に聞き出そうというわけではなく、自然な流れで質問されたりするものだから、ついつい答えてしまうという感じでだったのかもしれない。

もっとも、鳴海自身が他人とのコミュニケーションを取るのが苦手なだけで、基本的に聞かれたことには正直に答えていただけに過ぎない可能性が高い。

鳴海は普段から積極的に自分から話しかけるような性格ではなかったし、むしろそういう行動自体が苦手であった。

ただしそれは、相手の気持ちを汲み取ることが苦手だというわけではない。

仕事上でも相手に合わせて会話をすることは多々ように、それはあくまでも仕事だからと、ある程度割り切っているところがある。

とはいえ、それ以外の人間関係については不器用なところがあるのは鳴海自身が分かっている。

そのため鳴海にとっては、人と関わることは苦痛であり面倒ごとでしかないと思っている節があった。

だからこそ極力他人に干渉することを避ける傾向にある。

しかしながら、職場ではそうも言っていられないのでなるべく角を立てないように努力しているつもりである。

届いた情報デバイスサンプル

鳴海がそんなことを考えているうちに、昼休みからオフィスに戻ると先週注文した商品サンプルが届いていた。

封を開けてみると、中身は腕時計である。

その時計には、高級感のあるレザーベルトが巻かれており、文字盤にはブランドのロゴが入っている。

一見すれば普通の時計に見えるかもしれないが、実はそうではない。

これはただのブランド物ではなく、諸々の最新技術に対応している腕時計だ。

つまりはスマートフォンなどの端末のアプリ、アダプタを用いればVRで用いるHMDにも装着でき、サラウンドの補助や付加情報を連動する機能も付いている。

もちろん音質も良くて操作性もいいため、普通に使っていても問題ないレベルである。

また、バッテリー容量も大きく1回充電するくらいで2日以上は持つらしい。

鳴海は早速試着してみたり色々といじってみる。

商品サンプルとは言え、もしかしたら自社で扱うことのあるかもしれない商品サンプルだ。

実装されている機能を一通り確認した後、担当しているテスト用のサーバーに接続し動作を確認する。

問題なければ、自社製品としてのパッケージングやアセンブリに入り、プロセスを進めていく事になるだろう。

タスクと価値観と残業と

しばらく経って定時になると、鳴海は帰宅の準備を始める。

帰り支度をしていると、隣の席から大沢が声をかけてきた。

彼女はまだ仕事が残っていて帰ることはできないようだった。

こんな時、いつもは「お疲れ様です」の一言で済ませてしまうのだが、今朝もらった誕生日プレゼントの件もある。

鳴海はいつもの様に挨拶をすると、少し考えて口を開く。

鳴海は大沢のタスクから手伝えそうなところをピックアップし、アウトプットされる情報に偏差が起きないかポイントを確認する。

やがて仕事が一段落したところで残業になってしまって無口気味になっていた大沢が口を開いた。

仕事のタスクとしては予定よりもむしろ進んだくらいに鳴ったため、どうやら彼女もそろそろ帰りたいと思っていたようだ。

そして彼女は突然、鳴海に質問をしてきた。

なぜ鳴海はいつも一人でいるのかという事についてだった。

たしかに鳴海も入社してからずっと一人でいるし、同期の社員とも必要以上に会話をするようなことはない。

けれど決してコミュ障だとかそういった類のものではないと考えている。

おそらく大沢のように誰からも話しかけられるような明るいキャラクターであればきっと違った社内でのコースもあっただろう。

けれども鳴海自身から率先して話しかけることはなかったし、どちらかといえば必要最低限しか喋らない方なので、どちらかというと人見知りに近いのかもしれない。

あえて結論づけるとすると、いわゆる一人ぼっちなのだ。

それでも仕事には支障がない程度の付き合いはできているので特に困った事はない。

しかし、あえてそんなそんな質問を受けるまで、鳴海は自分に対して疑問を抱いた事はほとんどなかった。

なぜなら自分が生きていくために仕事をするのは当然の事だし、そのために他人と協力するのは当然のことだからだ。

だが改めて考えてみると確かに自分はいつも大沢がいないとき、一人でいることがほとんどだ。

そんなことを考えていたら、何か答えを返す前に大沢がこう口にした。

「今日はありがとうございました。」

優しい人なのだ感じると同時に、安易に余計な感情を抱えてしまうことは仕事のすれ違いを生む。

それ以上は踏み込まない方がいいだろうと鳴海は思った。

もし仮にこれ以上踏み込んだとしても大沢が困るだけだ。

そして、大沢も察したのが分かったとみえたのか話を終わらせる。

互いに帰りの準備をすると、またいつもの朝へ向いた2人は帰路に就いた

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著者

複数のブログサイト制作と運営、イラストデザイン、3DCG制作、エッセイや短編小説、私小説などの、色々なコンテンツを制作しています。







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