少し時間はありますか?
真夏の正午、この中学校は4階建ての中庭を囲む構造になっていて、少し苔の生えた古めかしい石造りの噴水から静かに湧き出る水に太陽の光が届くとき、校舎の中庭で散る埃と共にうっすらと低い位置に虹を見ることができる場所がある。
通常、夏の季節は太陽の位置が高いので虹は見えにくい。
しかし、それを分かった上で、そこに座って小さく観測できる虹を見ながら、秋の紅葉と同じように夏を楽しみながらお弁当を食べる。
まるで、そんな過ごし方を想像して作られたような、アイデアがたくさん詰められた中庭型の校舎では日々、生徒達が笑い、悩み、時には様々な意味を持つ涙を流し、様々な感情を互いに発信しながら過ごしている。
僕自身は、この学校の教師ではなく、外部の特別講師として招待をされ、主に土曜日の午前中、定期的に色んな事をテーマに講演している講師だ。
講演が終わる時間はお昼時間に当たる事が多くて、僕はその時間帯に校舎を出るときには、その中庭を抜けていく。
「今日は何の講演できているんですか?」
高等部の女生徒が声を掛けてきた
「・・・。めずらしく声を掛けられた。どうすればいいんだろう…。」
普段は、早々に校舎を出て、周りのいくつかある駅のそばにあるランチタイムを利用しながら、その日を少しだけいつもと違う日で楽しんでいる。
「今日も実際の仕事で利用するツールと使い方の説明をする内容でした。」
あっさり淡々と答えた。
無表情とは違う、けれど、背丈の差があるので、何とも言えない不思議な顔で下からのぞかれる感じになると少し不安になる。
「そうなんですか。」
…そちらもあっさり。質問の意図は何だったんだろう…
心の中で考えていると
「去年、先生の講義を選択して受けていたんですよ」
「そうだったんだ!ありがとう。でも、先生ではないよ 」
ココは訂正すべきなのか…。う…ん。どうしよう。
呼ばれ方にしても、逆に名前も分からない生徒をどう呼べば良いのか…
「それで… どうかしたの?」
「先生、時間ありますか?」
すごく唐突で端的だ。
最近は「おじさん構文」という用語もあるくらいだ….。
質問者が端的に相手の時間や状況を把握するための質問をするのも普通なのだろう。
「時間はあるけど…何かあった?」
僕が受け持っている特別講義は、いつも祝日や土曜日に行われていて、その学校の生徒達もその日は午前中だけ選択授業を選んで学校に登校し、授業を受けている。
「先生って変わった大人だからいろいろ分かるかな思って。」
変わった…まぁいいや。
「うん。時間あるよ。何かの相談?」
「いっつも授業終わった後 みんなでお弁当食べてるんですけど、先生来れますか?」
….近くにコンビニがあった気がする。
普段は外食を楽しみにしていたけど、相談事があるのであれば解決策が必要なのか。
それとも、とにかく話しを聞いてほしいのか。
これらについてはケースバイケースなので何とも言えないが….
「OK。ちょっと近くのコンビニで適当に買ってから行くね。それで…。どこにいけばよいの?」
「あっ、じゃあ音楽室です。お願いします。」
彼女は、綺麗に光が差している先に見える…そう。
かなりアバウトに3階辺りにあるのであろう音楽室っぽい方を指さした
「じゃあ、またあとで」
簡単に相談事にのるような事にたいして簡単に返事してしまったが大丈夫だったのだろうか。
そう思いながらも、僕は近くにあるコンビニへ向かい良く考えもせずに適当に何かつまめそうな、とてもお昼ご飯のラインナップにはほど遠い、でも会計だけは何かと高くつく感じで買い物を済ませ、校舎に戻り、音楽室に向かった。
Coming soon…
大変恐縮ながらお話の追加は不定期更新です。
登場人物
僕:特別授業の外部講師として、実際に仕事で利用するツールなどを紹介したり使い方を教える講義を担当している